ゼロの使い魔 ハルケギニア茨道霧中
第五十五話「見せ札と切り札」




 カトレアらを送り出した翌日、トリステインからは予定通り戦列艦『クーローヌ』に加えて一昨年就役したばかりの新鋭フリゲート『ルタンティール』が到着し、訓練を兼ねて引っぱり出されてきた『ウォースパイト』が礼砲で歓迎した。
 たった二隻の訪問だが、この時期にはありがたい。セルフィーユにトリステインの軍艦が来たとて、リシャールとアンリエッタが懇意であることは良く知られていたから砲艦外交の一端とは成り得ず、人々の目には心強い援軍に映るだろう。
 実際にはアルビオンのように援軍が来ない例もあるし、国土が狭くて常駐する軍も小規模と抵抗もままならず、トリステインが最大限の努力を払っても援軍の到着が降伏後……あるいは全滅後となる可能性が非常に高い。いや、対レコン・キスタを考えればトリステインが先に戦場となって援軍を出す余裕が無くなる可能性の方が余程あり得るのだが、見せ札としては有効であった。

 艦隊を率いてセルフィーユへとやってきたのは、シャティヨン提督である。リシャールはああそういえばと頷いて、右手を差し出した。
「いつぞやは、その、ご迷惑をお掛けしましたね」
「当時セルフィーユ伯爵であられた陛下が上手く立ち回られたこその昇進と、受け止めております。
 真にありがたくあります」
 一昨年の春にリシャールが空賊騒ぎに巻き込まれた当時、シャティヨン提督はロサイス航路の空賊討伐部隊司令官の地位にあり、クーテロ大使ともども一時的に逮捕されていた縁がある。その後提督は口封じも兼ねて昇進したが、あちらは任務、こちらは釈放後に四領拝領の騒動もあって、書簡による挨拶は交わしていたものの実際に会うのは初めてだった。
 元『クーローヌ』副長、現艦長にもお久しぶりと相好を崩す。
「ご無沙汰であります、陛下!
 弟たちまでお世話になったと聞き、まこと恐縮であります」
 『ルタンティール』の艦長ガスパール・ド・グラモンは、相変わらずの伊達男振りでリシャールを安心させていた。
 人選を見るに、小部隊には不釣り合いでも中将のシャティヨン提督を頭に据え、二人の艦長もリシャールと旧知の人物で固めてくるあたり、ラ・ロシェールの空海軍司令部から大層注意を払われていることがわかる。……それが国王に気を遣った結果なのか、あちらの空海軍司令長官と同じラ・ラメー姓を持つこちらの空海軍司令長官に配慮したものかまでは、リシャールには伺い知れなかった。
「陛下、こちらをアンリエッタ殿下よりお預かりしております。
 どうぞお受け取り下さいませ」
「ご苦労様です」
 後回しにするのも王太女殿下に対して失礼に見えてしまうので、断りを入れてその場で親書を開封する。
 多少どころではなく長い文章はいつものことだが、内容はリシャールをげんなりとさせるに充分であった。
「……あー、艦長」
「はい、陛下?」
 リシャールは務めて表情を保ちつつ、背後に控えていたラ・ラメーを振り返った。
「明日、もしくは当日、『ラ・レアル・ド・トリステイン』が寄港するかもしれないのでよろしくとのことです」
「……かもしれぬとは?」
「ヴィンドボナでの交渉が早く終わればこちらに、長引くようなら諦めると仰せです。
 まだ表には出さず、下準備だけ進めておいて下さい」
「了解であります」
 忙しさにかまけて報告のみで済ませていたが、アンリエッタとしては我慢ならぬらしい。ウェールズと最後に何を話したのか詳しく聞きたいと、親書は締めくくられていた。

 アンリエッタが自らゲルマニアへと向かったのは、レコン・キスタに対抗する軍事同盟を結ぶ為の交渉が難航していて、アルビオン滅亡も目前に迫りそろそろまとめ上げる時期と判断されたことが原因と、リシャールは聞いている。
 これまでトリステインとしては、同盟が結ばれないのも困るが早すぎても足元を見られかねないから、押しも引きも慎重に成らざるを得なかった。
 対してゲルマニア側もそれなりの高値で恩を売っておかないと、本命たるアルビオン攻略時にのけ者とされて援軍の出し損になってしまうらしい。最初から出さずにトリステインが完全に滅んでからガリアと結んでアルビオンごと再征服する手はガリア王ジョゼフとある程度の関係修復が必要で、実質封じ手になっている。アルビオンが風前の灯火となった今、トリステインまで滅んでは間に入って調整役になる者がおらず、パイの奪い合いから全面戦争に発展しても不思議はないと見られていた。
 ガリアはジョゼフ王が読めなさすぎてどう機嫌を取ればよいのかわからぬと、マザリーニでさえ半ば匙を投げつつあった。彼の国はハルケギニア随一の大国だが、国の主の性格が色濃く反映されているのか、時折つじつまの合わぬ不可思議な対応を取る。
 その最たる例が、皮肉にもセルフィーユ建国への後押しだった。わざわざ安くない費用とまわりくどい手間をかけて王国など作らずとも、廃家同然の王弟家など勢いで断絶させても今更である。
 以上のことから、トリステインとしてはトリステインのみの力でレコン・キスタの第一陣を耐え凌ぎ、ゲルマニアの援軍が到着した後反攻に転ずるという図式が既定の路線として成り立ってしまっていた。
 その為の代価には始祖に連なる正統な王家の血筋、つまるところアンリエッタ自身が支払われる様子である。ウェールズも自分を身売りする方策を練っていたとジェームズ王より聞いていたから、リシャールも渋面こそ作ったが驚いてはいない。ただ……彼女が親書に記した一文、『ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世閣下が女性でなくて助かりましたわ』とは随分と皮肉の込められた書き方であり、決して望まぬ『最良の一手』であることも伺い知れた。

 感謝祭当日は観艦式で忙しいだろうと水兵達には休暇が与えられ、セルフィーユからはいつものように酒食が振る舞われた。前夜祭は明日だが、彼らには観艦式の準備もある。
 提督や艦長、幕僚らは、慣例通りシュレベールの城で歓待を受けていた。人数が多いので、立食形式となっている。
 公式の宴席だがカトレアとマリーは不在、クリスティーヌ夫人は必要時以外表に出るべきではないと自らを律しているらしく、体調が優れぬとの理由でこれ又欠席と、男所帯になってしまっていた。
「それは残念至極、王妃陛下はご不在でいらっしゃいましたか……」
「皆様と入れ違いで、トリステインに。
 明日には戻りますよ。
 ……艦隊の方は、いかがです?」
「新造艦ともども、各艦訓練に励んでおります」
 トリステイン空海軍は、往事のアルビオン空軍に比べるとさほど大きな規模ではない。戦列艦もせいぜい二十隻程度、それも危急の折と予算をつけて新造し、退役予定の艦を先延ばししてやっとこの数字である。そう言えばあの竜母艦とやらはどうなったかなと思い出したが、手紙で問われた時期から考えて建造中というところだろうか。
「物流の方はどうですか?」
「頭の痛いところであります。
 軍需品に限らず、あらゆる品が空の国へと流れていきますな。
 あれらがトリステイン攻略に使われることは明白でしょうが……」
 内戦中であらゆる物資が不足していると言われれば、それまでだった。民間商船には危険を伴う状況ながら稼ぎ時でもあるし、それを邪魔するにも理由が必要である。いっそ戦争中ならばそのような心配は力尽くで解決されるのだが、武力を行使するにはまだ早い。
 セルフィーユでもラ・ロシェールの募兵事務所は任務を終了して人員は戻していたが、代わりに貿易事務所か何かを出しておくべきか、検討が始まっていた。
「物資もそうですが外交も活発な様子で、時折公用使の旗を掲げたフネがあちらこちらへと行き来しております」
「様子見程度のものでしたが、うちにも来ましたねえ。
 そちらでは、頻繁に見かけるのですか?」
「はい」
 詳細はまた別便で届くだろうが、現地の意見も貴重である。
 彼らはラ・ロシェールでの任務が長いはずで、リシャールでは気付けない違和感などにも敏感だ。
 ちらりと向こうを見やれば、ラ・ラメーも元部下らしい数人をつかまえて酒を注いでいた。

 翌日、空港へと戻ってきた『ドラゴン・デュ・テーレ』を迎えに行くと、市街にはもう前夜祭の前祝いと称した屋台なども出始めていて、祭りの準備が進んでいる。
「おかえり、カトレア、マリー」
「ただいま、リシャール」
「ただいまー!
 とうさま、つかいまいっぱいだったの」
「うんうん。
 いっぱいだったんだ」
「キュルケは大きなサラマンダーで、クロードくんはカワウソだったかしら」
「へえ……」
 使い魔は大抵主人の特性を表すと言われているから、火のキュルケがサラマンダー、水のクロードがカワウソというのは納得が行った。
「タバサはドラゴンを喚び出してたわ」
「おお、流石だね」
 ガリア王姪は伊達じゃない、と言うところだろうか。
 空海軍でも連絡用の空飛ぶ魔獣の配備を要求されていたし、騎獣舎ぐらいはこちらにも用意した方がいいかも知れないと、余計な事を思い出す。
「とうさま、ルイズはサイトよんだの!」
「サイト!?」
 魔獣だろうか、リシャールも聞いたことがない名だった。
 しかしだ、ルイズが魔法を苦手としていることは、リシャールも随分前から知っている。その彼女が召喚に成功したなら、義父もようやく肩の荷が下りるだろう。
「リシャール、ルイズはね」
「うん?」
「人間の男の子を喚びだしたのよ」
「……へ!?」
「サイトよ、とうさま」
 一瞬だけ、リシャールはぽかんと口を開けてカトレアとマリーを見つめた。
 二人にうんと頷かれ、いや、確かに人間も生き物には違いないから召喚されてもおかしくはないかと、混乱した思考を立て直す。マリーの言う『サイト』は、種族名ではなく個人の名らしい。
「そ、そうなんだ……。
 でも、そのサイト氏はどこの人なんだい?
 語感から言えば……アルビオンあたりかな?」
「……あら。
 ルイズが楽しそうだったから、聞くのを忘れていたわね。
 少しだけ、リシャールに雰囲気が似ていたかしら?」
「僕!?
 そりゃあ、一度会って見たいね」
 予告無し人を召喚してきたりして大丈夫なのかと思案するが、戦乱のアルビオンならそれどころではないだろう。ましてや自分が考えることでもないかと、棚に上げておく。
「それから、お手紙とか預かりものとか……フェリシテ」
「はい、カトレア様。
 隊長殿、お預けします」
「ご苦労様」
 フェリシテが差し出した鞄を、隣に立っていたジャン・マルクが受け取る。
 ともかくも無事の帰国で良かったと二人を城に帰し、リシャールも庁舎の方へと向かった。
 今日のところはあれが足りぬこれが足りぬで方々が騒ぎになると、これまでの経験から良く知っていたのである。

 感謝祭当日は、今年も晴れた。
「続きまして、『ラ・レアル・ド・トリステイン』であります!」
 係の水兵が大声を張り上げ、艦上の客たちはそちらを見た。威容を味わいつつ細部の観察も行える見栄えの良い距離とされる百メイルほどを開け、『ラ・レアル・ド・トリステイン』が『ドラゴン・デュ・テーレ』の左舷を通り過ぎる。
 若干遅れて歓声が響き渡った。流石にアンリエッタの公式訪問発表は多少ならぬ騒ぎになり、地上の観客らも盛り上がっている。
 急遽、リシャール一世即位記念大観艦式などという名がつけられたのも、彼女のセルフィーユ訪問への箔付け故だった。その名は大変気恥ずかしいが、リシャールだけでなくアンリエッタにとっても外交上の得点になるからと説得されては、黙って書類にサインを入れるしかない。
「こうして眺めると、わたしのフネも割と大きいのかしら?
 先日見たアルブレヒト閣下の『アルブレヒト・デア・グローセ』よりは、ずっとずっと小さいけれど……」
「噂に聞く『アルブレヒト・デア・グローセ』は百メイル超の超大型艦、大きくすれば堅固になるのは当然にしても、その分小回りがきかなくなりますから、さて、如何でしょうな?」
「去年の諸国会議にも来ていたあの巨艦ですね」
「設計思想と申しましょうか、お国柄も現れます。
 同級のフネならば、ゲルマニアは砲力よりも防御力、アルビオンは速度重視の艦が多く、ガリアの主力艦は両用艦という制約を持ちながら砲力に力を入れております」
 今年の観艦式は、主会場であるラマディエの演習場上空に浮かべた『ドラゴン・デュ・テーレ』の前を参加各艦が一定の距離を取って順に航行するという、極当たり前の型式を取っている。
 去年まではフネの数が足りず、リシャールらは地上から観艦式を見上げていたが、今年は自前で六隻、招待艦どころか『飛び入り』まで含めれば大小合わせて十二隻の参加と、国威発揚とも戦乱間近ともとれる陣容だった。
 その飛び入りに乗ってやってきたアンリエッタ・ド・トリステイン王太女殿下は、『ドラゴン・デュ・テーレ』の艦上でリシャールら相手に好き勝手な感想を述べている。
「シャティヨン提督」
「はい、殿下?」
「我が国はどうなのかしら?」
「はっ。
 我がトリステインの艦艇は、一般的には、下手に特徴付けぬことであらゆる任務に使いやすいよう考慮されております。
 あれに見ゆる『ラ・レアル・ド・トリステイン』は、戦列艦としては二等級ながら、砲力、防御力、速力……そのどれもが適度に均衡のとれている艦でもあります」
「列強に比べてフネの数が少ないから、何にでも使い回しが出来るようにしてあるのよね?」
「あー、そのですな……」
「あら、褒めているのよ。
 『ヴュセンタール』の件もあって、先日の会議で少し話題に上ったの。……国力の差を考えれば、最良の選択だわ」
 なるべく波風を立てぬよう気を遣ったであろうシャティヨンの言葉を、うんと一つ頷いてアンリエッタは意訳して見せた。そうでしょうと訊ねられたラ・ラメーが首肯も出来ず、難しい顔をして口をもごもごとさせている。マザリーニでも同行していればやんわりと諫めの一言でもあっただろうが、彼は今頃トリスタニアでアンリエッタの不在を補うべく奮闘してるはずだった。
「ねえリシャール、セルフィーユではどう考えているの?」
「うちは……そうだなあ、造船は最初から投げているけど、もしも選ぶとすれば逃げ足一択かな。現にそれが成功に繋がってる。
 それに商船はともかく、ジェームズ陛下からお預かりした戦列艦は正直言って持て余し気味だよ」
「そうなの?」
「うん。
 参戦する時には、トリステインの主力艦隊に混ぜて貰うのが一番かもしれない。
 数がなければ力が半減すると教えられて、なるほど確かにと思った。
 動かすだけでも高くつくし……って、これはいいか」
 戦列艦は読んで字の如く、互いに艦列を並べての撃ち合いでこそ最大限に能力を発揮する。
 その為に強固な船体構造を持つと同時に強力な砲を多数搭載してあり、人手も掛かれば風石の消費も大きいのだから、当然運航費用はべらぼうに高かった。
「もう一つ質問するわ。
 リシャール、新しい軍艦を新造するとしたら、あなたならどんなフネを注文するかしら?」
「僕が?」
「ええ、もちろん仮定の話よ。
 それこそ『ヴュセンタール』のような竜母艦まで含めて、予算も工期も関係なし、フネの種類にはこだわらないで、あなたの思い通りに注文出来るとすれば?」
「新造するくらいなら、費用対効果まで考えて中古を探すとは思うけど、そうだなあ……」
 新たな艦の参考にでもしようというのだろうが、軍艦と限られてしまっているので、なかなかに答えにくい質問だ。強そうな軍艦ならイージス艦や原子力空母かなと思いついて、内心で苦笑しつつ押しとどめる。
「何でも出来る万能艦……なんてのは夢物語になるから除外するとして、現実的なところなら、切り返しに優れた足の速いフネかなあ」
「切り返し?」
「殿下、切り返しとは、風に逆らって進むための操艦法の一つであります。
 風をつかまえてある程度行き足を着けては舵を切り、風上へとフネを動かします」
「風上を取ることで、戦場では事を有利に運べます。
 リシャール陛下は、そのことをお考えなのでは?」
「ええ、そんなようなところです。
 後は足が速ければ言うことないかなと」
「現在、セルフィーユ空海軍では有事の際、足の速いフリゲート三隻のみで構成された第一艦隊と、それ以外の第二艦隊に分けて運用する予定を立てております」
 ガリアやゲルマニア……あるいはレコン・キスタに比べて小なりと言えども、トリステイン空海軍の規模ならば戦列艦を並べて敵を迎え撃つようなことも出来ようが、セルフィーユは標準的な戦列艦でさえ水夫の数が足りずに右往左往している。現に先ほど通り過ぎた戦列艦『ウォースパイト』の運用も、四百名弱いるセルフィーユ空海軍第二艦隊の将兵……元アルビオン空軍の生き残りが全兵力を投じていたが、他のセルフィーユ艦同様定数にも足りていない。残りの三隻は、修理中の艦も含めて今日はお休みとアリアンス軍港に留め置かれていた。
「元々数が揃えられるものじゃないし、逃げるにしても戦うにしても、こちらが何かを選べる確率は増やしておきたいんだ」
「……そうね」
 レコン・キスタの革命艦隊は、アルビオン王立空軍より戦力を引き継いでいる。半減したとは言え数の上では元から不利、それが大挙して攻め込んでくると思われるのだから、アンリエッタが憂うのも無理はない。
 ゲルマニアとの軍事同盟、そしてアルブレヒト三世と婚約が結ばれたことも、彼女の憂鬱を大きくしているかも知れなかった。

 観艦式終了後、アンリエッタはカトレア、マリーとともに街へと降り、セルフィーユの衛兵隊に加えて武名を世に知られたトリステインの魔法衛士隊が彼女たちの警護についた。
 リシャールの方は例年通り国内巡幸である。
 夕方前にはそれも終えなんとか合流したが、半日を街で過ごした彼女たちはお疲れ模様だったので、祭り菓子をつまみながら王政府内で一息ついていた。
 お忍びの最中、周囲には私服のジャン・マルクやメイド服のアニエス、王軍の制服を着た近衛隊の兵士が談笑しつつもそれとなく壁を作り、杖こそ腰に差しているがフードのついたマントで騎士服を隠したヒポグリフ隊の騎士が目を光らせていたらしい。……その数およそ三十名、なかなかの布陣であったと言う。
 無事ならよしと頷いて応接室に向かえば、スカーフで『金髪』を被い、街娘に扮したアンリエッタは御機嫌であった。
「とうさま!」
「おかえりなさい、リシャール」
「リシャール、ご苦労様。
 平民のためのお祭り……とは聞いていたけれど、楽しいものね。
 とても素晴らしいわ」
「トリスタニアでも、立太子式の時は随分と賑やかだったよ」
 ちなみにリシャールはまだ、ラマディエ市街へと顔を出していない。後から『海鳴りの響き』亭に顔を出して乾杯ぐらいはしておこうかと、疲れた頭で考える。
「……さて、リシャール」
「アンリエッタ?」
「話して貰おうかしら」
 ああ、そういえばウェールズのことを聞く為に彼女はわざわざセルフィーユに来たんだっけと、リシャールは小さく溜息をついた。





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